ぐったりしているカナデの体を拭い布団をかけてやった後、
俺も手早く自分の後始末をする。
そしてスルっと横に滑り込むと、強くなり過ぎないようにギュッと
抱きしめた。
睫を伏せているその俺と同じ顔をしみじみ見ながら、
胸が震えるような幸せを感じる。

元々俺達は一つだった。
それが生まれて来る時に二つに別れ、そして今又一つになった。
あるべき場所に戻ったような、そんな不思議な気持ちがする。
カナデが甘えるように俺の胸に顔を埋めてきた。

「身体、辛くないか?」

優しく背中を擦りながらそう聞くと、カナデは少し掠れた声で

「ん、大丈夫。さすがに続けては無理そうだけどね〜。」

と、へらりと笑って答える。

「ヒビキ〜、明日映画見に行こうよ。せっかく母さんからチケット
 もらったんだし。
 俺達2人だけで一緒に出掛けた事ないしさ〜。」

確かに再婚後、俺達は二人で外出した事は1度もない。
大抵親や友人が一緒だったから。
恋人と二人でのデートも悪くない。でも……

「ん〜、俺は一日中ベットの中で過ごしてもいいけどな。」

俺がそう言うと、頬を赤くしながら俺を見上げる。

「もう〜〜!ヒビキってクールな振りしてエロエロ魔人なんだから!」

エロエロ魔人って……

「……エロい俺は嫌い?」

少し傷付いた振りをして見せてやると、急にオロオロしだす。

「い、いや!そ、そんな事ないよ!
 どんなんでも俺はヒビキが好きだよ?」

「……エロエロ魔人でも?」

「う、うん!当然!ヒビキがエロエロ魔人でも俺は全然大丈夫!」

「……じゃあ今からもう1回抱いてもいい?」

「もちろ…ん……って、あ〜っ!ヒビキ、俺をはめたなーーー!」

真っ赤になって怒りながら俺の胸をボカスカ叩いているカナデを、
俺は思わず爆笑しながら抱きしめた。
あ〜、可愛すぎるんだから。

「嘘嘘。今日はもう抱かないよ。明日は一緒に映画見に行こう。」


その後カナデはベットの中で俺に色んな話をした。

一緒に暮らし始め、俺に避けられている気がしてすごく傷付いていた
事、それでも俺と一緒に通う為に志望校を変えた事、
2ヶ月前、俺が部活中に軽い捻挫をしたのがきっかけで、
練習中怪我をしてないか毎日図書館から見張っていた事、
(道場から図書館が見えるって事はその逆でもあるという事に
俺はその時気が付いた)
俺の下駄箱に入っていたラブレターをこっそり捨てたり、
俺に告白する為校門で待ち伏せていた女の子達を追い払ったり。

……そんなの全然知らなかったぞ?

「だ、だってヒビキが取られちゃいそうで……
 モテるのは知ってたけど、男子校だからって安心してたら
 男からもラブレター入ってるし。
 俺、ヒビキとの間を取り持ってくれって何度も頼まれたんだよ?
 学校では強くてカッコいいヒビキに憧れてる奴多いし、
 図書館では星稜の女の子達が道場覗いてるし。
 なのにヒビキは全然無頓着だから、部活に支障が出ないようにと、
 兄として俺が代わりに……」

懸命に言い訳する兄が可愛くて、抱きしめながら背中をポンポンと
叩いてやった。
そしてさっきカナデが俺の右耳の下につけたキスマークを
見せてやる。

「俺はカナデの、だろ?」

俺が笑ってそう言うと、真っ赤になって頷いた。
そして俺がカナデの鎖骨につけたキスマークをなぞりながら

「カナデも俺の。
 俺、自分で思ってたより独占欲強いみたいだから覚悟しておけよ?」

と言うと、俺の方を見上げ花が綻ぶように笑った。
俺はその唇に優しくキスを落とし、甘えてくるカナデを胸に
抱きかかえて眠った。

− 完 −

2005/05/15 by KAZUKI

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